雨にキスの花束を 2



ほな、気いつけるんやで」

少女を家まで、ガトに送らせることにし別れを告げる。

花など買っても、町から町へと旅する身。いつもなら手にすることなどないのだが、その花の姿をみたときどうしても手に入れたくなったのだ。

「芍薬。勢いのある白やね」

すべて白で統一されたその花束。決して、高価な花ではないが、今を盛りと咲いているそれは、地に落ちても尚穢れることなく頭を上げているようで、その様子は眩い金の髪をもつ彼の人を想像させた。

―今頃、どうしているのだろうか――。

どこかで、傷ついてはいないだろうか。悲しいめにあってはいないだろうか。
彼の人を思いだすと、まるで病のように胸が痛むのだ。

「重症やわ」

思わず苦笑して空を見上げたときだった、頬に冷たい雫があたった。

「雨…」

先ほどまで、あんなに穏やかな天気だったというのに、空から降る雨粒は、みるみるうちに、石畳で覆われた地を鉛色に変えていく。

「ついてへんわ」

呟いて、ヘイゼルも周囲の喧騒と雨から逃れるように走りはじめた。

 

 

「ついてねぇな」

時をほぼ同じくして、苛立たしげに吐き出された言葉がある。
形の良い眉をしかめ、空を仰ぐ。

三蔵は、連日の野宿についに忍耐の限界に近づき、本来の道のりからは大分それることとなったが、比較的大きな町があると知って、ここに辿りついたのだった。

八戒たちに買い物を任せ、自分は先に宿に戻っていようと決めた途端の雨である。
大通りからはずれてしまった為、周囲には建物の陰がない。今夜の宿と決めた宿屋からは、まだ少々距離がある。
何か雨を凌げる場所はないかと見渡したところ、数メートル先にぽつんと大きな木が立っていた。

「あれしかなさそうだな」

見たところかなり大きな木のようであるし、このまま突っ立ていても濡れるばかりだ。
雨足が弱まったら宿に戻れば良い。そう考え、三蔵は大木目掛けて走っていった。



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2006.4.22