「静かだな」

三蔵は呟く。こんな山奥まで花見のために登ってこようとする酔狂な輩はいないのだろう。

はらはらと舞い落ちる花弁と、鳥の囀り。それに、箸使いの下手な悟空が、重箱の中身と格闘する『うー』だとか、『あー』などと言った声が聞こえるだけで、下界の喧騒からは程遠い。

山登りの疲れと、このところの忙しさからようやく開放された気の緩みか、穏やかに降り陽光に誘われ三蔵はうとうとし始める。

「でさー、そんとき悟浄が…」

悟空の話に適当に相槌を打っていた三蔵から、何の反応も返ってこなくなったことに、不思議に思った悟空が、三蔵を覗き込むと、法衣の袖に両手を入れたまま、うつらうつらしている三蔵がそこにはいた。

「さんぞー寝ちゃったの?」

悟空が声をかけても三蔵が目覚める様子はない。

穏やかな風が、時折三蔵の金糸の髪をゆらして、頬を撫でる。それがくすぐったいのか三蔵の長い睫が微かに震える。
普段、きつさが全面に押しでている容貌だが、強い光を宿す紫玉が閉じられているせいか、今はどこかあどけなく見える。

その様子を、眺めていた悟空だったが、微かな吐息を漏らす唇に誘われるようにして接吻する。
柔らかな唇は、甘い綿菓子のような感触だと悟空は思った。

「さんぞー、大好き。俺を見つけ出してくれてありがとう」

三蔵は誕生日のプレゼントなんてやらないと毎年言うけど、そんなものは今更いらないのだ。何故なら三蔵に出会えたこと、こうして、毎日一緒にいられること、それが悟空にとって何にも代えがたい贈り物なのだから。

「また、こうやって、でぇとしような」

悟空は満足そうに微笑むと、三蔵の肩を自分のほうにもたれさせ、暫しの午睡をむさぼるべく、瞳を閉じたのだった。


END

2006・4・5



悟空お誕生日話。タイトルは某アイドル二人組みのツアー名から。春だからほのぼのしたお話を書きたいなぁと思ったのです。寺院時代の二人って想像するだけで、ご飯三杯はいけます。おませな悟空を書くのは楽しいです(笑)

TOPへ戻る 小説topへ