花鳥風月

〜月の章〜

楸瑛に連れていってもらった、夜市には珍しいものがたくさん並んでいて、あれこれと眺めてるだけでも時間を忘れるほどだった。
美味しそうな菓子も手に入ったし、明日はこれをお茶と一緒にだそうと珀明は包みを開き思いを馳せていると、窓ががたりと音をたてる。

「これは我が心の友、珀明。かような時間に何やら怪しげな包みを開き笑みを浮かべている様は、面妖なり」
そう言って、窓からの闖入者は招いたわけでもないのに遠慮もなく、部屋へとやってくる。

「窓から、入ってくるなと何度言ったら分かるんだ!この鳥頭!!」
「そのような瑣末なことを気にしていては、つまらぬ毎日を送ることになるのだ」

何度言い聞かせても、普通に門から訪ねてきたことがない龍蓮に、毎度毎度怒鳴るのも疲れた。珀明はがっくりと肩を落とす。

「第一、お前に面妖だとか言われるようになったら僕も人として終わりだ」
「それは、菓子ではないか」

まったく人の話を聞く気がなく、自分の思うままに話を進めるのにも、幸か不幸か慣れてしまった。

「これは、駄目だ!」
龍蓮が手を伸ばそうとするのをいち早く察した珀明がさっと、上に持ち上げる。

だが、上に持ち上げたところで、立っている龍蓮の方が高い位置になる為、それは龍蓮の口の中に消えることとなってしまった。

「あー!!」
「ふむ。これは美味なり。口の中が雲のようになる」

龍蓮は味わうようにゆっくりと租借し、飲み込む。

「お前のよく分からない感想なんか聞きたくない!これは絳攸さまに差し上げるものなんだからな」
珀明の言葉に、龍蓮が僅かに眉を寄せる。

まったくと呟く珀明は包みを元に戻そうとするが、またしても伸びてきた龍蓮の手によって掻っ攫われてしまう。

「だから、食べるなって言ってるんだ!この孔雀頭!!」
「心狭しことを言うのは、心根までも貧しくなる」
独り納得したように言い、龍蓮はまた一つ、菓子を取り上げる。

そうして攻防戦は続き、瞬く間に最後の一つとなってしまった。

「どうしてくれるんだ!この馬鹿龍蓮!!」
半泣きの声で名を呼ばれ、龍蓮は嬉しそうな笑みを浮かべる。

そうして、床にへたりこんでいる珀明の前に自分も座りこむと、最後の一つを半分に割って、珀明の口に放りこみ、自分も残り半分を口に入れる。

「どうだ、珀?雲の味がするであろう?」
「雲なんて食べたことないから知るか!」

卵の卵白を粟立てたというその菓子は確かにふわふわとして、雲の味とはこんなものなのかもしれないと珀明は、ほんの少し思った。

「心配せずとも、あの者のことは愚兄その四に任せておけば、何の問題もなしだ」

龍蓮は何がそんなに嬉しいのか、笑み崩れている。
やはりよく分からない奴だと珀明は思うのだった。






     翌日、いつものように茶の用意をして侍朗室の扉の前に立つ。

茶菓子は昨夜、龍蓮に食べつくされてしまったのでなかったが、今日は常に多忙の絳攸の気分を少しでも浮上できればと、甘い良い香りの桂花茶を選んでみた。
「如何ですか?」
思い切って訪ねてみると、絳攸は花が綻ぶような微笑でもって答えてくれた。
「珀明の入れてくれる茶は、いつも美味いが、今日のはまた、特別に美味い」
礼を言われ、それだけで嬉しくなる。
ふと、昨夜龍蓮が言った台詞が思い出され、楸瑛が何か絳攸に言ったのだろうかと聞いてみたい気もした。
けれど、まあいいかと思う。理由がどうであれ、絳攸が喜んでくれるのだから。
「珀明、もう一杯頼んで良いか?」
「はい!」
珀明は嬉しそうに茶器を受け取ると、二杯目を注ぐのだった。


コメント
一万Hitお礼のフリーリク。市子さまリクエストの双花+龍珀で全員が焼きもちを妬く四角関係。悩んだ結果、珀明くんを中心に回してみました。
吏部はそこだけお花畑なイメージで(笑)この二人は姉妹のようですね〜(爆笑)

 

TOP NOVELTOP