彩雲国版 マリア様がみてる 2


この貴陽学園では、血の繋がっている姉妹とは別に、学園内にて清く正しくをモットーとした生活を送る為、
高等部には『姉妹』という制度が存在していた。

ロザリオを授受する儀式を行って姉妹となることを誓うと、姉である先輩が妹である後輩を指導するのである。

『『『選ぶのが面倒だったからな』』』
相変わらずの姉たちの鬼畜な言い草に、楸瑛は溜息をつく。

「あの、藍薔薇さま方、喉は乾いていませんか、お茶をお入れ致しましょうか」
おかしな雲行きになってきた、話の展開に打開策として絳攸が備え付けの小さなキッチンへと向かう。

『『『ああ、ありがとう。絳攸殿はいい子だね』』』
『『『本当にあの黎深の義理の妹とはとても思えないよ』』』
『『『鳶が鷹を産むようなものだ』』』

藍薔薇さまたちは口々にそんなことを言いながら、再び仕事を再開する。一部喩えが違うような気もしないではなかったが、絳攸は黙っていることにした。

やかんに入った湯が、シュンシュンという音をたてて沸騰し、絳攸はカップを5つ並べる。
本当は、藍薔薇さまたちと、自分の分の4つにしようかとも考えたが、あまりにそれは大人気ないのでやめた。

七分目ほどにお湯をそそぎ、紅色の液体をカップに満たす。

「藍薔薇さま方、ミルクとお砂糖は−」

絳攸は後ろを振り返って、好みを聞く。だが、余所見をした瞬間、カップに手がぶつかり、熱い紅茶が手にかかってしまう。

「熱ッ!」
「絳攸!」

ガタンッと音をたてて、椅子から楸瑛が立ち上がる。思いがけない素早さで、絳攸の側により、
その白い手を自分の元に引きよせる。

「大丈夫?火傷しなかった」
「あ、ああ、ちょっとかかっただけだから」

かかった瞬間は熱かったが、一瞬のことだったので、今はどうともない。

「そう良かった。あなたの白魚のような指に醜い火傷の跡でも残ったら大変だもの」

至近距離で見る楸瑛の心底安心したように微笑に、絳攸は不覚にも心臓がドキドキしてしまう。

「でも、心配ね。念の為、消毒」
「きゃっ!」

楸瑛が次の瞬間取った行動に、絳攸は『きゃっ』とも『ぎゃっ』ともつかない悲鳴をあげる。それもそのはず、絳攸の指は楸瑛によって、熱い口内に含まれていたのだ。

湿った口腔内の感触に絳攸の中でおかしな感覚が背筋を這い登ってくる。
耐えられなくなり、楸瑛から逃れようとした瞬間、突然その感触は消えた。

「絳攸に触るな!このふしだら小娘がっ!」
「紅薔薇さま…」

突然の成り行きに唖然とした絳攸がみたものは、痛そうに頭の後ろを押さえる楸瑛と、憤怒の様で、扉を背にして仁王立ちしている黎深の姿であった。

 

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