藍龍蓮の憂鬱 3

「龍蓮、どこで絳攸を捕まえてきたんだい?」
「捕まえてきたとは、人聞きの悪いことを。三年の校舎で、本を抱えたまま彷徨っていたのを同行してきたのだ」

どうやら、図書室か何かに行こうとして迷っていたところを、この龍蓮にみつかり、捕獲されてしまったらしい。

元居たところに返しておいでとは、犬や猫の子でない以上言えなかった。言ったところで、この龍蓮には通じないだろう。

「絳攸さま…」
突然のことに固まっていた、珀明が唖然と呟く。

「知っているのか?」
劉輝がひそひそと、珀明に話しかける。

「はい。絳攸さまは、中等部でも有名でしたから」
僅かに、珀明が顔を赤らめる。

「学園始まって以来の秀才と誉れ高いんですよ」
まるで、我がことのように珀明は説明する。

「しかし、何で、絳攸なんだい?」
楸瑛は、尚も罵声を上げ続けている絳攸と、どこ吹く風の龍蓮を見遣って問いかける。
この龍蓮が、珀明のように彼を尊敬していたとか、そんな可愛い理由で連れてくるはずがない。

「萌え…」
『『『『は?』』』』

龍蓮の口から漏れた一言に四人は一斉に聞き返す。

「萌えというのは、大切な要素なのだと聞く」
「痛っ」

龍蓮はそう言って、傍らの絳攸を引き寄せる。遠慮のえの字もないような力で、龍蓮は絳攸の顎を掴み、楸瑛たちの方へと向けさせる。

「眼鏡というのは萌え属性の一つであると、聞いた。故に、魚を釣るのに丁度良いと思ったのだ」
「つまりは、部員を増やす為には、餌をばら撒かなければ集まらないということだな」

劉輝がクイズの答えを当てたかのように、晴れ晴れとした表情で手をぽんと打つ。

「ふざけるな!何が眼鏡属性だ!これは、コンタクトをなくしたから仕方なしに眼鏡をしてきただけだ!」
「龍蓮、悪ふざけも対外にしないと、怒るよ」

想い人を萌え属性に当て嵌められた楸瑛も、これには流石に怒りを感じる。

だが、龍蓮は自分がしたことを今いち把握していないようで、きょとんとした顔をしている。





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