HAPPY HAPPY DATE |
――ありったけの大好きの気持ちと感謝を君に伝えよう――
桜の花が満開になるこの季節、悟空に『誕生日』がやってくる。
「なーさんぞー、俺とでぇとしよう!」
きらきらと金の瞳を輝かせて、目の前の猿はふざけたことをぬかした。
「却下だ」
だが悟空の願いはまさしく言葉通り、秒殺される。
仏教に置いての最大の行事ともいえる潅仏会(花祭り)もようやく終わり、少しはゆっくりできるかと思っていたというのに、なぜ、わざわざ疲れると分かっていることをしなければならないのだ。
「やだ!ぜってぇ、さんぞーとでぇとする!だって誕生日プレゼントくれるって約束だったじゃん!」
その言葉に、書類を捲っていた三蔵の動きが止まる。
そういえば、そんな約束をしたような気もしないでもなかった。
ここ一ヶ月あまりというもの、潅仏会の準備に追われ、やれ仏具がどうの、貴賓の方々への対応はどうするのかといったことから、甘茶の味までみさせられた日には、三蔵でなくとも切れたくなるだろう。
そんな中で、悟空は不気味なほど大人しかった。
常であれば、かまってくれ、遊んでくれと纏わりついてくるのだが、三蔵が疲れてはて寝室に戻ってくると、マッサージまでしてくれるという至れりつくせり具合だった。
だから、三蔵は忘れていたのだ。
潅仏会と悟空の誕生日は時期が重なる。しかも間の悪いことに悟空の誕生日は潅仏会より前にやってくる。
去年は、それで散々三蔵を苛立たせた。遊んでくれない、かまってくれないと地団駄を踏む悟空に本気でキレたのも両手の数ではすまなかった。
(どこでつけた知恵か知らんが、誕生日などと余計なこと覚えてきやがって)
去年のことを思い出し、三蔵の眉間に深い縦皺が刻まれる。
そこで、今回は初めに言い含めておこうと、三蔵は決意したのだった。ところが、その心配は杞憂だった。
なんと、悟空のほうから言い出してきたのだった。
『さんぞー、これからしばらく忙しいんだろ。俺さんぞーの邪魔しないようにする』
猿も成長したものだと意外な気持ちで、三蔵はその言葉を聞いたのだった。
だが、その後に続いた言葉に頷いてしまったのは浅はかだったとしか言いようがない。
『だからさ、忙しいのが終わったら、俺に誕生日プレゼントちょうだい』
どうせこいつのことだから、菓子だの餅だのといった食い物に関するものだろうと思い三蔵は頷いてしまったのだった。
『じゃあ、さんぞー!約束な』
そういって嬉しそうに笑い、小指をさしだしてくる。そして、三蔵が次の行動に移る前に、悟空は三蔵の手を取ると、素早く小指を絡め、ゆびきりげんまん、などとやり始めたのだった。
ようやく全てを思い出し、尚も難しい表情で黙りこくっている三蔵とは逆に悟空は何がそんなに嬉しいのか満面の笑顔で、三蔵が早く書類を片付けて、自分とでかけてくれることを待っている。
「八戒が、お弁当作ってくれたんだ。外で食べたら、きっとうまいよ」
どうやら、今回のことには八戒も一枚噛んでいるらしい。その言葉にモノクルをかけた、一見人畜無害そうな青年の策略めいた笑みを悟空の背後にみて、三蔵は観念せざるを得なかった。
TOPへ戻る 次へ 小説topへ |