「おい、悟空。てめぇ、どこまで行くきだ」
「えっとねー、もーちょっと」
三蔵は弾む息の中、悟空に問う。一体どこまで行くのかと。
悟空の言う『誕生日プレゼント』とやらをあげることになり、結局こうして連れ立ってでかけたのだったが、先ほどから急な傾斜の山道を登っているだけで、一向に悟空が何をしたいのかが見えてこなかった。
前を歩く悟空は早く、早くと三蔵を促してくる。
(これのどこがデートだってんだ。単なるハイキングじゃねぇか)
三蔵は確かに一般の人間とは鍛え方が違う。しかし、鍛えているといっても所詮は人間のレベルでの話であって、妖怪と比べようとしても無理な話だった。
前を歩く悟空は道なき道を気にしたふうでもなく、確かな足取りで進んでいく。今や悟空との距離は広がるばかりだった。
「さんぞー、着いた!」
「これは…」
悟空に連れられて、山道を歩くことおよそ1時間あまりも経った頃だろうか。ふいに眼前が開け、まるで神々が住むという天界にでも迷いこんだかのような、風光明媚な景色が広がった。
「見事だな」
思わず感嘆の台詞が口から漏れでる。
山桜の白い花弁が緩やかな風に乗って、ひらひらと舞い落ちる。近くには小川でも流れているのだろうか、微かに水の匂いがした。
三蔵の感じいったような貌に悟空はここに連れてきて良かったと思った。
いつもの散歩の途中で偶然ここを見つけ。普段は花より団子の悟空もおもわず見惚れた。
だから、ぜひともこの綺麗な景色を自分の大好きな人にみせたかったのだった。
隣に立つ三蔵をチラリと確認するといつも不機嫌そうにしている表情もわずかに綻んでいるのが分かった。
三蔵が喜んでくれている。それだけで悟空はわくわくとした嬉しい気持ちになるのだった。
「なぁ、さんぞー俺、腹減った〜!お弁当食おうよ」
「お前はそれしかねぇのか」
呆れたような視線を向けてくる飼い主を気にすることもなく、悟空は、軽く5人前はありそうなほどの、重箱を並べていく。
「さんぞー、これ俺が握ったんだー」
食べてと、満面の笑顔と共に差し出してきたのは、三角というより限りなく丸に近く、巻かれた海苔も盛大にはみ出している代物だった。
「俺にこれを食えと?」
「うん!」
八戒が握ったであろう、きちんと等間隔に並べられたおにぎりの中、いくつか見られる不揃いなもの。それは悟空が握ったものなのであろう。
三蔵は眉根を寄せたまま暫しの間、考え込んでいたが、口元に持っていく。
(仕方ねぇ、今日は特別だ)
握り飯に美味いも、不味いもないだろうと思い、ゆっくりと咀嚼する。
「なぁ、うまい?」
「まぁ、見た目ほど不味くはねぇな」
それは、形こそ歪だったが塩の加減も悪くなく、率直な感想を三蔵は述べる。
三蔵の食べる様子をじっと見詰めていた悟空だったが、どうやら合格ラインだったらしいと知ると、ようやく安心したのか、重箱の中身に手を伸ばした。
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