片手ダケ繋イデ




−俺は子供で、時々我侭を言っては三蔵を困らせる。でも、そんなの三蔵のことが好きなんだから仕方ないじゃん−

「はっ、あぁ−ァ   」
「んっ…さんぞっ!」

高い嬌声を上げて、組み敷いていた三蔵の肢体が仰け反る。
まるで、丘に上げられた魚みたい。

「三蔵、好き。すげぇ好き」
抱きしめたまま、忙しない呼吸を繰り返す裸の胸へと、頬を摺り寄せる。

「うぜぇんだよ。いい加減離せ猿」
三蔵はにべもなく言うと、俺を引き剥がし枕元に置いてあったタバコに手を伸ばす。

「ちぇっ」
久々に抱き合えたのに、なんだかつれないの。
美味そうに紫煙を吐き出す、綺麗な横顔。
三蔵は寝そべったまま、灰皿を手繰り寄せると、その細い指先で器用に灰を落としていく。
「なにじろじろ見てやがる」
三蔵は、俺の視線に気がつくと、怪訝そうに眉を寄せる。
「ううん。なんでもないよ」

俺は、ベットの中で、頬杖をつきながら三蔵の姿を見つめる。
闇に浮かぶ白い肢体。けぶるような金の髪。
窓から差し込む月明かりのみという微かな光源すら、この人の前ではその美しさを引き立てる要素になっている。

「ただね、俺って幸せだなあって思っただけ」
その言葉に三蔵は、奇妙な生き物でも見るかのごとく俺に視線を移した。

「あ、何だよその顔っ!おかしなモノなんか別に食ってないからな!」
俺は、ちょとムキになって三蔵へ食って掛かる。

「こうして、三蔵と会えたことが幸せだなって思ってさ」
だって、世界はこんなにも広いのに、俺を見つけ出してくれたのが三蔵だったなんて、これはもう運命ってやつだよね。

「悟空…」
三蔵は何か言いたそうに、その宝石のような紫の瞳で俺を見つめる。
「あ、もちろん三蔵の全てが俺のものって思っているわけじゃないよ。三蔵は三蔵のものなんだしさ」

それくらいは、いくら馬鹿呼ばわりされる俺だって分かっている。
身体を重ねたからといって相手の全てが自分のものになるだなんて、そう思っている奴は本当の馬鹿だ。

「あたりまえだろ、人は生まれてから死ぬまで自分一人のものでしかねぇんだよ」
三蔵は小馬鹿にしたように鼻をならす。
「お前だって、俺のものじゃねぇ。お前はお前自身のものだろう」
そう言って三蔵は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。

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