空蝉 八 |
だが、絳攸がその衣を投げつけるよりも早く、楸瑛の手によって絳攸は捕らえられてしまう。
「この手を離せ!」
「離さないよ」
自由が利かないことに苛立った絳攸が楸瑛の手から逃れようとするが、あいにくびくともせず、掴まれた手首に込められた力は痛いほどで、歴然とした力の差はこんなとき、やはり彼は近衛の将軍職にあるものだと、思い知らされる。
「絳攸、君に覗き見の趣味があるとは知らなかったよ」
その言葉に絳攸の頬がカッと燃える。
そして、次の瞬間発破音が高く鳴り、楸瑛の頬を赤くする。
「満足かい?絳攸」
打たれた頬を押さえようともせず、楸瑛はどこか暗い瞳で絳攸を見据える。
初めてみる楸瑛の表情に、絳攸は本能的な危機を覚え逃げをうとうとする。
けれど、そんな絳攸の行動などとっくに見通している楸瑛は、片手で手首を捻りあげ、尚ももがく絳攸の身体を引き寄せ、腰に手を回す。
「 んっ!」
驚きに瞳を大きく見開く絳攸のことなど、おかまいなしに、楸瑛は絳攸に接吻する。
角度を変え、何度も貪るように接吻する。脅えたように奥に縮こまる舌を歯列を割って、追い求め、絡める。
こういった行為に不慣れな絳攸は慣れた楸瑛の手管にあっさりと陥落する。
楸瑛が絳攸を解放すると、含みきれなかった透明の糸が、互いの唇が離れるのを惜しむかのように煌いた。
「そんなに良かったのかな私との接吻は」
力の抜けきった絳攸の身体を片手で支え、楸瑛は囁く。
「ふざけるな!」
未だ先ほどの余韻に足元がふらつくが、何とか渾身の力をこめ、楸瑛を突き飛ばす。