空蝉 九


密やかに、密やかに心の中で育っていった想いを無理やり引きずり出され、暴かれたようで絳攸は泣きたくなった。
楸瑛に知られてしまったのだろうか。彼が女性にしか興味がないのは承知している。

ところが、友人だと信じていた相手はそれ以上の気持ちを抱いていた。
これは、自分に対する嫌悪の表れか。

それとも蔑みか。

想うことすらも罪だというのか。

涙の滲んだ瞳のまま、絳攸は唇を噛み締め、楸瑛を睨む。

どれくらいそうしていたのだろう。短いようにも、酷く長いようにも思えたそのときだった。

「こんな夜更けに何を騒いでいる」
「黎深様…」

夜目にも鮮やかな紅の衣。膠着状態を破ったのは、恐ろしいほどに不機嫌な響きを持った紅黎深の声だった。

「どこの馬鹿共が騒いでいるのかと思えば、絳攸お前だったとはね」

黎深は扇子越しに聞こえよがしに溜息をつく。

どうした藍将軍、賊でもみつけたのかね」
「いえ、紅尚書、李侍郎と少々話しをしていただけですよ。夜なので、殊の外声が響いてしまったようです。申し訳ございません」

そう言って、楸瑛は何事もなかったかのように黎深に頭を下げた。
黎深はちらと楸瑛を横目で見遣るとそれきり、興味も失せたかのように絳攸の元へと歩みを進める。

そして、手にした扇で絳攸の顔をあげさせる。




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