The Seven Star Stories



 

ざわざわと雑踏の中を人々が行き交う。
あちこちに広げられた、テントでは多種様様な品が並べられている。
温暖な気候を表してか、色とりどりの果物が並ぶ店がある。かと思えば、軒先に裁いた鳥をぶらさげた串焼きの店も並ぶといった何とも活気に満ちた具合だ。
その中で旅の途中であろうマント姿の男がふと顔をあげる。
顔をあげた拍子にさらりと流れた豊かな黒髪は後ろで軽く結ばれている。
「ここが紫国か…。兄上たちも厄介なことを押し付けてくれる」
呟いて、その整った容貌に微苦笑を浮かべる。
 
彼、―――藍楸瑛がこの国に降り立ったのは訳がある。
彼の兄たちが『あの、黎深が密かにファティマを育てているらしい。どんなものか、ちょっといってみてきなさい』まるで、近所の邸の猫か犬の様子でもみてこいといった気軽さで、兄たちは言ってのけたのだった。
それがどんなに大変なことか分かっていて言ってくるあたり兄たちも相当性格が悪いと思う。
 
国家間の争いが耐えなかったのが今から、たった十数年前。
中でも紫国はその最たるもので、国の内部でも玉座を巡って内乱とも言える状態が何年も続いてきた。
最近になり、ようやく新たなる王が即位し、国は落ち着きをみせたという。
紫国は正規の王の治める統治国家である、とのアピールの為か、各国の騎士を集めてファティマの大規模なお披露目を紫国の首都、貴陽で行うという。
そのお披露目に、紅黎深が件のファティマを連れてくるだろうと見越して、楸瑛の兄たちは、紫国へ行ってこいと命じたのだった。
「もし、その噂のファティマとやらを黎深殿が連れてこなかったら、私はどうしたら良いのだろうね」
楸瑛は誰に問いかけるでもなく、困ったなと続ける。
楸瑛の故国である藍国は彼の兄である、三つ子たちが治めている。
若いながらも、その優秀な手腕を遺憾なく発揮し、外敵からもよく国を防ぎ、また他国の争いに関係することないという、民にとっては非常に良い治世を布いている。
ただ、困ったことに個人的にライバル視して憚らない人物がたった一人いるのだ。




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