The Seven Star Stories 4


「さて、怪我はありませんか」

楸瑛は、フードの主に声をかけると、手を貸そうとする。

「お助けいただき、ありがとうございました」

だが、貸そうとした手には目もくれず、返ってきたのは凛とした声音。まだ若い、おそらく自分とそう変わらぬであろう、年齢と思われる声だった。

「いえ、どういたしまして。それより、どちらに行かれるのかな?」

見れば、手には地図が握られていて、それとは別に大切そうに包まれたものが抱えられている。どこかへの届け物の途中といったところだろう。

「ある方の使いにて、王立図書館へと行く途中です。すいませんが先を急ぎますので、失礼します」

楸瑛に向かって礼をして、歩き出すが、その足を向けた先はどうみても王立図書館とは逆の方向だった。

「君、王立図書館は反対方向だと思うのだけど?」

怪訝に思い、楸瑛が声をかけるとぴたりと立ち止まる。

「ちょ、ちょっと、こっちに気にかかるものがあって…」

しどろもどろに言い訳をする様をみて、楸瑛は思わず噴出す。

「王立図書館なら、丁度、私も行こうと思っていたところだから、良ければ一緒に行くかい?」

先程の行動といい、どうやら彼は俗にいう方向音痴というらしいと当たりをつけた楸瑛は、さり気なく、促す。

本当は王立図書館など、用事はないのだが、どうにも目の前の彼を放っておくのは危なっかしく、彼を目的地まで、送り届けるくらいの時間は別に良いだろうと結論付ける。

「目的地が一緒なら、同行しても良いぞ」

俄かに、彼の声に嬉しそうな響きが含まれる。

「そう。それは良かった。ところで、君の名は?」
「…絳攸」

やや、躊躇うような間があったが、応えてくれた。

「そう、良い名前だね。私は楸瑛。宜しく」

楸瑛…と、絳攸はその名を反芻する。あえて、苗字は言わなかったが、思い当たるところがあるのかもしれない。

楸瑛と言う名は、珍しいものではないが、騎士や、貴族といった、そちらの繋がりからすれば、真っ先に思い出されるのは『藍』だろう。

「ところで、君はどうしてそんな頭からすっぽりとフードを被っているの?」

「これは、れいし…じゃなかった。俺の養い親が外出の際は見につけるようにと言われたから」
「そう。大変だね」

フードの下の姿が気になり、何とはなしに話を振ってみたが、何やら事情がありそうだと判断し、それ以上の追及はやめた。

楸瑛としても、自分の事情は明かす気がないのだから、お互い様といったところだろう。

「それにしても…惜しいな」
「何か言ったか?」

絳攸は不思議そうに尋ねるが、何でもないと言って、誤魔化す。

女性ならばともかく、会ったばかりの男の容貌が見てみたいなど、どこの物好きだと楸瑛は内心で思う。自分はそちらの趣味はないはずだ。

それに、もしかしたら、人に見せられないくらい醜い傷でもあるのだろうか。

ならば、その養い親とやらが、気を使って、被れと言ったのかもしれない。

そんなふうに考えて、楸瑛はフードについてはそれ以上触れず黙って空を見上げるのだった。







 



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