[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


The Seven Star Stories 5


目的地である、王立図書館へは、市場からそう歩かないうちに辿りついた。
館内は閑散としていて、カウンターも暇を持て余しているようだ。

最近は前時代の遺物ともいうべき紙の束などを閲覧する人も減っているらしく、ここに用があるのは物好きか学者くらいなどだという。

司書らしき女性に、主の居場所を尋ねると絳攸のことは聞き及んでいるのか、閉庫である地下書庫にいるとの答えが返ってきた。

「どうする絳攸?」
「直接渡すように言い付かっているからな。地下に行く」
「なら、私も一緒に行ってもいいかな?」

絳攸は迷うような素振りを見せたが、ここまで送ってもらったのに帰れとは断りづらいのか、了承の意味を込めて頷く。

本当は送り届けたら、帰るつもりだったのだが、どうにも絳攸と離れがたく地下へと続く階段を楸瑛も一緒に下っていった。

薄暗い、地下への螺旋階段を下り、分厚い扉の前で立ち止まる。

「邵可様、失礼します。絳攸です」
「ああ、よくいらっしゃいましたね。どうぞお入り下さい」

扉に向かって絳攸が声をかけると、穏やかな声音で返答が返ってくる。

「おや、そちらは?」
「楸瑛と申します。紫国に赴いた際は、兄たちから、くれぐれも宜しく伝えるようにと言い付かりました」

楸瑛が名乗りを上げると邵可は、ああ、とばかりに表情を綻ばせる。

「あなたが、楸瑛殿でしたか。そう言われてみると兄君たちと似ておられますね。御武勇は色々と聞いていますよ。頼もしい弟君を持って兄君たちはさぞ鼻が高いことでしょう」

「いえ、まだまだ、未熟者で。兄たちには遠く及びません」

謙遜ではなく、本心からそう思う。早く兄たちに認めてもらうだけの働きをしたいと思うが、

なかなか思うようにはいかないのが現実だった。

「邵可様、こちらを預かってきました」
「ああ、ありがとう。助かります。これで、娘も正式に宮中騎士として仕えることができます」

一通りの挨拶がすんで、絳攸が邵可に渡したものは、新しく補充される紫国の宮中騎士団への推薦状だった。
一通り目を通すと邵可は、二人に椅子にかけるようにすすめる。

「さ、絳攸殿、いつまでもそのようなものを被っていては窮屈でしょう。フードを脱いでも大丈夫ですよ」
「ですが、邵可様っ!」
「大丈夫。楸瑛殿は決して他言するような方ではありませんよ」

絳攸は邵可に言われても、楸瑛と邵可を代わる代わる見比べるが、やがて邵可の言葉に勇気づけられたのか、意を決してフードを取り去った。

「ファティマ?!」

楸瑛は思わず、驚きの声を発する。

フードの下から現れたのは、美しい赤色のヘットコンデンサーと、室内の人工の明かりを受けて反射する青藤色のアイレンズだった。

楸瑛の驚きに絳攸が微かに表情を固くする。

楸瑛は、自分のファティマを持たないが、騎士である以上、ファティマは身近な存在である。

藍国の四男として生を受け、宮中に出入りする騎士と共に数多くのファティマを幼い頃から見て育ってきた。

多少の差異はあれど、大体どのファティマも印象としては儚く、従順な姿であった。

だが、目の前の絳攸は今まで見てきたファティマのどの印象にも当て嵌まらない。

凛とした立ち姿は、守るべきものの対象であるファティマの姿とはかけ離れている。

「まさか、マインドコントロールを受けていない?!」

楸瑛はある一つの可能性に行き当たり愕然とした。






 



TOP NOVELTOP NEXT